ボスフリー

 ボスフリーとはスプロケットとフリー本体を一体にしたフリーホイール。勘合によってハブに組み込みますので、規格が同じならハブとフリーは好きな組み合わせで使えました。

 

本体構造

 蓋、中子と外筒からなり、中子と外筒は2箇所にあるボールで接しています。中子と蓋が内ワン、外筒の両端に外ワンの構成はペダルやヘッドパーツと同じですが、内ワンになる蓋を固定するロックナットがありません(NWNは除く)。いかに逆ネジとは言え、これが蓋の緩みやすい一因となっています。

 

 本体は2〜4爪のラチェット構造を有していて、これにより1方向のみ力を伝えます。この構造はボスフリーでもフリーハブのフリーでも同じです。

本体清掃

 古くなってくると外枠と中子の間にゴミが入り込んで回りが渋くなってきますので、赤の線に沿ってオイルを流してやると回転が軽くなります。オイルは、5-56のようにサラっとしすぎると乾きすぎますし、チェーンオイルのように粘度がありすぎるとゴミを拾いやすくなりますので、私はミシンオイル程度の物を使用しています。また、1日程度オイルに漬けておいても(ドブ漬け)良いそうです。

 ウエスで蓋の部分を綺麗に拭いた後にミシンオイルなどのさらっとした油を本体を回転させながら流し込んでゆきます。しばらく流すと音が変化して軽く回るようになりますが、フリーの下から綺麗なオイルが出るようになるまで流し込んでゆきます。その後、立てかけておいて余分な油を出してしまえば終了です。

 大学のクラブ時代、本体分解を敢行する先輩もおられましたが、蓋を開けるとき勢い余ってボールをこぼして本体破棄になったり、蓋の締め付けが甘くてツアー中に開いてボールが出てしまったりしたのを目撃しています。ロックリングの無い蓋はきつく締めても緩みやすく、よほどのことがない限り分解しないほうが無難でしょう。大学の先輩方はチェーンと同じくボスフリーも消耗品と考えて、歯がちびたらチェーンとセットで本体ごと交換していました。チェーンが\1,000程度の時にPerfectの14-24が\1,700程度でしたので多少コストはかかりますが、ツアー中に故障するくらいなら、このほうが安全ですね。気軽にフリー本体を交換できるのは、ボスフリーの有利なところでしょう。

 

本体分解

 分解方法を記載しますが、自己責任でお願いします。まずはリムーバーで一度外してから勘合面にグリスを塗布して再度取り付けます。これは蓋を緩めてから再度外すときに、外しやすくするためです。次にマイナスドライバーかポンチで蓋を時計回りにたたくのですが、非常に硬くしまっていることが多く、壊す覚悟でたたきましょう。蓋が軽く緩んだら、リムーバーで外してからトレーなどの上で作業すると玉の紛失が防げます。

 

 引き続きポンチでたたいても良いのですが、勢い余ると球が飛び散りますので、フリーキャップ外しなどで静かに蓋を開けます。蓋を開けたら玉の個数を勘定しておきましょう。ちなみにPerfectの場合は1/8球が外側36個、内側42個でしたが、数は機種によってまちまちです。上方の球とスペーサーをのけた後、静かに上げると下方の玉が落ちます。

 

 ラチェットの爪は嵌め込まれているだけなので、バネを内方へ押してやれば上方へ引き抜けます。清掃後組み付けるのですが、爪にはバネ用の溝(矢印)が切ってありますので、うまく嵌っているかどうか確認してください。ただし、この構造は共通ではなく、リングで爪を押さえているなどのものもあります。組み立ては、外枠の内側に薄くグリスを塗って玉を並べますが(右)、ボスフリーの玉は小さくて玉当り部も狭いのでグリスの粘性を受けやすく、グリスは粘性の低いものを玉が落ちない程度少量だけ使います。グリスが多くても力行時には問題ないのですが、空転時に抵抗が大きくなったり、ラチェットの動きが悪くなったりします。また、水や埃がどうしても入る部分なので、グリスが多かったり粘度が高かったりするとごみを拾ったり、固着の原因になったりしますので良いことはなさそうです。

 

 中子を逆さまにして上から入れるのですが、反時計回りにまわしながら入れるとラチェット部がうまく入ります(左)。ひっくり返してスペーサーを入れてから外枠外側に薄くグリスを塗って玉を並べ(中)、蓋を反時計回りに締めこめば仮組終了です。手で回してみて大きなガタが出ればスペーサーを抜いて調節します。締めこんで回転がきつくなる場合はスペーサーの追加が必要ですが、このような場合は起こりにくく、あるとしたらスペーサーの入れ忘れでしょう。最後はホイールに付けてから再度締めこんで終了です(右)。このフリーは撮影するため2回分解しましたが、1回目に強く締めこんだつもりでも、2回目の方が軽く緩めることができました。一度分解すれば製造時と同じ硬さでは締めこめないと思った方が良さそうです。

 

規格・互換性

 国産ボスフリーはシマノとサンツアーの2社でほぼ占められていました。ハブとの勘合部はBSC(BC1.37×24tpi)、イタリアとフランスの3規格ありましたが、国内ではBSC準拠のJISがほとんどと言ってよい状態でした。このおかげでハブとボスフリーは自由に組み合わせできました。

 

レギュラーとウルトラ(ナロー)

 製品は2段からありますが、一般に流通し始めたのは5段になってからです。70年代は5,6段でしたが、80年代に入って歯間の短いウルトラ規格(2.7mm)が登場し、ウルトラ6,7段のボスフリーも出ていました。90年代以降はフリーハブ一色になって国産は消えましたが、外国製では8,9段のボスフリーも出ています。ウルトラ(ナロー)規格とは歯の厚みは同じながら、歯間を狭くしたもので(3.5mm→2.7mm)、同じ長さのフリー本体に1段多めに歯を積む事が出来ます。当然、対応するチェーンも全体の厚さを薄くしたのですが、スプロケットに当る幅は同じなため、レギュラーサイズのボスフリーにもウルトラ規格のチェーンが使用できました。8段まではこの規格なので同じチェーンが使用できますが、9段以後は歯の厚みも薄くしたため、対応するチェーンも専用品となり混在使用は出来ません。また、レギュラーチェーンは歯間の短いウルトラ用フリーには使用できませんので、現在では見かけなくなってしまいました。

 

スプロケットリムーバー

 スプロケットを外すにはスプロケットリムーバー(左)を2本使用します。最近のリムーバーはウルトラ(ナロー)タイプですので、どのボスフリーでも使用できますが、古い製品ではレギュラー用のリムーバーがありますので、古い工具でウルトラタイプのボスフリーを作業する場合は注意が必要です。

 

スプロケットの外し方

 スプロケットはトップが順ネジのネジ式になっていて、ローギヤは嵌め込むだけのスプラインになっています。機種によっては1〜4速までネジ式もありますので、作業する前に機種をよく確認してください。また、中華製(右)や国産最後の頃のボスフリー(Suntour・PowerFro)はロックリング形式のものもありますので要注意です。

 

 サンツアー・パーフェクトは、1、2速が同径のネジで3〜6速がスプラインになっていますので、スプロケットリムーバーを1速と5速に掛け、1速ギヤを反時計回りにねじると1速が外れます(左)。1速はきつく締まっている事が多いので、根性入れてねじりましょう。2速も同じように外せば、3速以下はスプラインですので簡単に外れます。

 

 スプロケットの組付けの時、歯の方向を間違えないで下さい(ローギヤは欠けたほうがスポーク側になる・左矢印)。2速を組み込んだ時点で一応の締め込みをします(右)。2速を締めこまずに1速を締めこむと1-2速間だけで締めこまれて3速以下の押さえが不足し、変速や本体に悪影響が出ます。1速も締めこんで組み付けますが、作業後最初の走行時にブレーキ負荷をかけながら2速、1速の順に踏んで締めこんでください。踏み始めのときにズルっと言う感じがしなくなれば締まっており、大抵は一回の施行で強く締まります。

 

ボスフリーリムーバー

 装着はリヤハブにネジ込むだけですが、外す時には専用工具(リムーバー)が必要です。国産ではサンツアーが新旧で3種類、シマノも3種類存在し、それぞれに互換性は全くありません。リムーバーの現行製品はシマノ新16爪のみでその他は廃盤になっていますが、サンツアーの2種はパークツールから代替品が販売されています。

パークツール

FR1 Y-8089 SHIMANO新型、Sachis,Aris  FR4 Y-8272 Atom,Regina,Zeus,Schwinn
FR2 Y-8137 サンツアー2爪       FR5 Y-8090 シマノHGタイプのロックリング用
FR3 Y-8138 サンツアー4爪       FR6 Y-8103 4ノッチのBMXフリーホイール用

 

サンツアー

 通常ではボスフリーの蓋に会社名とモデル名が書かれており(例外有り)、国産ではサンツアーとシマノがほとんどを占めます。次にハブとの分離時に使用するリムーバーとの勘合部を確認します。勘合部は製品によってまちまちで、サンツアーでは2爪(左)、4爪(中)の他に6爪(右)のマイクロライトがあります。

 

 サンツアーのリムーバーは2爪(TA-100)、4爪(TA-320)とマイクロライト用6爪(TA-250)があります。2爪はPerfectに始まり、Pro-Compe、NewWinnerまでで、WinnerPro、α、AP(含PowerFlo)は4爪になります。左の上2つはサンツアー純正(TA-100)、下の2つはパークツールFR-2(2爪)とFR-3(4爪)で定価は千円程度です。サンツアーが無くなって版権の心配がないせいか代替品が堂々と売られていますが、ユーザーにとってはありがたい限りです。2爪の工具で4爪のボスを外せそうな気がしますが、2爪のほうが太くて多少広く出来ています(中)。そのため、4爪ボスフリーに2爪リムーバーを流用出来そうに見えますが、少しはみ出してしまって流用出来ません(右)。

 

 純正でも代替品でも同じように思いますが、違いました。写真はGRANDTECHの後輪ですが、チェーンラインに余裕があってハブナットが少し外へ出ています。そのため、純正のTA-100では底が浅いためハブナットに当たって噛みあいません(中)。この場合、ハブを分解してシャフトを抜く必要があります。これに対してパークツールのFR-2は長くて底が深くなっていますので、問題なく作業が出来ます(右)。ボスフリーなんて滅多に抜きませんのでハブのグリスアップと同時にするなら良いのですが、システムや機能評価で頻繁に交換するならこの差は大きいです。

 

シマノ

 シマノの場合、勘合場所が本体表面の2爪はすぐ判りますが(中)、内側にある場合はシャフトで隠れるようになりますので、判別に注意が要ります(左右)。

 

 シマノ第一世代のフリー抜きです(TL-FW20)。デュラエースや600が出る前からあり、その後も一般車には使用されていたようです。小径なのとフリー抜きが厚いので、当然シャフトを抜かなければ外せません。

 

 シマノ第二世代のフリー抜きは2爪となり、周囲を抱え込むようになりました(TL-FW10)。デュラエース、600に採用され、MF-6207までこの形式です。サンツアーと同じような形ですが、フリー側の方が多少出っ張っています。ホールドはサンツアーより良さそうですが、実際にはフリー抜きの周囲に邪魔されて勘合部の状態が視認出来ず、勘合が浅くなって舐めてしまうことがあります(右)。

 

 第二世代もまずかったのでしょうか、最新型ではまた12爪に戻っています。ただし今回は製造技術が上がったためか前回より薄型となり、ハブシャフトをつけたままでも使用できます(右)。ただ、この頃はボスフリーからフリーハブへの移行が進んでいた時期なので、デュラエースなど高級品は7400シリーズを最後に市場から消えてしまいました。

 

ボスフリーの外し方

 長年の使用によってフリーは結構硬く締まっています。順ネジですので、反時計方向へ回すのですが、力が斜めにかかるとフリー抜きが傾いて溝をなめることがあります。対策として、ハブナットやクイックシャフトで軽く押さえてから外すと斜めにぶれませんが、少し回った所で緩めないとハブシャフトのねじ山やクイックシャフトを傷めます(右)。また、300mm程度のレンチでは硬くて回らないことが多いので、水道管などの鉄管をレンチにかませて延ばせば外れやすくなります。

 

 バイスを利用しても外せます。リムーバーをバイスにはさんで上からホイールを載せ、リムを持ちながら水平を保つようにして反時計方向へ回します。適度に押さえつけるのと、水平を保てば問題ありませんが、慣れないと角を舐めてしまうかもしれません。

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