フロントチェーンライン

 フロントのチェーンライン(C.L.)は歯の中央に設定されていますので、ダブルならアウターとインナーの中間トリプルならセンターの歯の中心になり、決定要素はクランクとBBシャフトにあります。通常は、クランクとBBシャフトはSetで販売されており、シングル〜トリプル対応の長さのBBシャフトが個々の銘柄に用意されています。ただ、メーカー自体が無くなっていて代替を探す場合などには、左右突き出し幅の同じBBシャフトを探す必要がでてきます。

クランク

 歯の中心はシマノ600のようにチェンリングの中央にある物(左)や、端に寄っている物(中・右)があり、端によっているものは歯の向きによってC.L.が微妙に変わってきます。メーカーより推奨されている歯の向きはまちまちで、これは各社ごと思惑あってのことなのでしょう。

 

 トリプルではセンターギヤの歯数をアウターギヤに近くする傾向があるため、アウター・センターよりセンター・インナーの歯の差が大きくなりがちです。さらに、ダブルに比べてインナーギヤとリヤTopスプロケットとのずれが大きくなるので、チェーンがセンターギヤ外縁に接触する場合が出てきます。そのためシマノ600のように両方を削ったセンターギヤを出したり、スギノのように歯数の差が大きくなるほど歯間を広くするよう推奨していたりします。トリプルの場合はラインが微妙にずれそうですね。

 

 クランクの形状によってもチェンラインは変わります。上は80年初頭のスギノの製品表ですが、同じBBシャフトでも、クランクの種類によってチェーンラインは変わってきます。

 

 3Tと言うBBシャフトで説明しますと、AEシリーズではC.L.46.0mmのトリプルシャフトとして使用しますが、DXシリーズのダブルとして使用するとC.L.46.5mm、トリプルとしてはC.L.43.5mm、DXCシリーズではシングルでC.L.42.5mmとして使用します。このようにクランク形状によってC.L.は変化しますので、代替BBシャフトを探す場合は、使用するクランクの推奨BBの値をよく知る必要があります。
 さて、クランクごとに必要なBBシャフトが変わるため、種類の増加を抑えるために汎用のBBシャフトが登場するわけですが、それでも各社が長年にわたって製造したため、かなりの種類のBBシャフトが流通してしまいました。次に、そのBBシャフトを見てみましょう。

 

BBシャフト

 最近はオクタリンクなど特化したBBが主流ですが、ここでは従来からある四角錘のBBシャフトを見てみます。手持ちのシャフトを下記の計測に従って測定してみました。計測にはノギスを使用しましたので、計測誤差はご容赦ください。リテーナー間の中心をフレーム中心と仮定して、ワンよりの突き出し量(TL,TR)を算出しています。

 

A1〜C1は右、A2〜C2は左

UN-52(上)
 四角錘では最終に近いロード用シールドBB。ダブル用でTL,TRともに19.4mmと左右対称。

UN-71(下)
 四角錘では最後のMTB用シールドBB。左右対称だがTLが23.6mmもあり、Qファクターの大きいMTB用

D-3NL(上)
 シマノ新BB系列でMTB系。TLが23mmと大きい

D-3SS(T、中)、D-3L(W、下)、
 シマノ600EX用のBBシャフト。シマノ新BBに属し、ワンはスギノなどと共通。TLは標準の20.5mm、ダブル用のD-3LはTRも20.5mmで左右対称となっています。

D-3A
 シマノ新BBでロード系。TLは標準の20.5mmだがD2が50.0mmと特殊。Dura7400の頃の製品と思われる。

600(T、上・W、下)
 70年代後半に出た3アーム、シマノ600のBBシャフト。シマノ旧BBに属し、D2が56mmあるためワンはスギノやシマノ新より薄くて特殊。TLは20.7mmとほぼ標準。

PT-68(T、上中)・PW-68(W、下)
 スギノプロダイ用BBシャフト。TA,ストロングライトとの互換性を持たせて作成されたため特殊。
 A1,A2は短くて細めの四角錘で、TLは17mmと短いのにTRは24mmを越えていて左右非対称。クランク形状との関係でこうなったのでしょう。なお、上の2つのPT-68は年度によって基部の作りが違っています。

3N-B(W)
 スギノプロダイLimitedや新PX用のBBシャフト。TLは20.5mmで標準となるも、TRは24.5mmと長め。これもクランク形状に関係するのでしょう。
 銀と黒の両方のBBが存在します。

3S(S、上)・3T(W、中)・3U(T、中)・3R(下)
 スギノマキシー用BBシャフト。TLは23.5mmと長めで、TRも25〜29mmと非常に長くなっています。これもクランク形状の関係でしょう。このタイプのクランクに最近のBBシャフト使用する場合は極端に内側になる可能性があり、要注意。
 マキシー系の記号説明はこちら

3SS(T)
 サカエ・カスタム-3用BB。見た目はマキシーとよく似ていますが、TLは20.5mmと標準で、TRは26.0mmとやや長めになってます。シマノD-3SSはこのシャフトのボルトタイプです。ワンはスギノと同じワンでした。

 ここまででお気づきのことと思いますが、シマノ、スギノ、サカエ、とも似通った記号が使われています。実はJISテーパーの記号は、緩やかに規定されているようです。緩やかというのは、時々イレギュラーが出ているという意味で、各社の事情があるのでしょう。
 以下に記号と規定値を示しておきます。なお、「3」はBB幅68mmでD2は52.0mm、「5」は70mmでD2は55.0mm、「7」は73mmでD2は57.0mmになっています。

 

 フロントのチェーンラインはクランクに指定されたBBシャフトを使用すれば問題ないのですが、流用する場合、最近の製品は特化しすぎて汎用性がありません。ただ、四角錘BBシャフトは長さと突き出し量さえ合えば流用できる場合が多いので、レストア時には重宝します。流通するBBシャフトはほとんどがJISシャフトですが、古い時代のシャフトは独自規格の物が多く、テーパー角が同じでも多少細いシャフトもありますので、流用する場合は注意が必要です。詳しくはリンク先へどうぞ。

 

ただし・・・

 

 ここまでの話は、すべて新品で組み込んだ場合です。ただ、経験者はご存知のように、BBシャフトの締め込みってどこまででも入っていくような感じがしませんか?。特に新品のシャフトを初めて締めこむ際は、かなり入っていく感じがします。そこで新品と既使用のPT-68シャフトを用意して、PXクランクに差込みましたところ、新品は4.3mmですが、既使用品では2.6mmまで入っていきました。上記のチェーンラインはあくまでも新品で組み込んだ時の値で、同じ組み合わせでも既使用品のシャフトとクランクを組み合わせると、フロントチェーンラインは内側に寄りそうです。ここらへんが「BBシャフトは現品あわせ」と言われる所以でしょう。サンプルの既使用シャフトは肩の部分がかなり削れています(矢印)。勘合面の傷の付き方から見ても、この部分はわざと削れるように出来ている感じがします。

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