実例での考察

 まずは、理想的なチェンラインとはどのようなものか考えてみます。理想的なチェーンの状態とは、歯とチェーンが平行にかみ合っている場合で、横方向のストレスは存在しません。通常、フロントとリヤの歯はフレームセンターと平行に設計されていますので、チェーンもフレームセンターに平行なときが一番良好な状態です。ただし、フロントもリヤも多段化されてますので、ギヤの選択によっては、ずれ角が大きくなります(フロントTOPでリヤ最ローとかフロントインナーでリヤTopなど)。それでは、標準的な構成で、ずれ角の推移を見てみましょう。

 

フロント シングル

 グランテックGR-27を見てみましょう。フロントはシングルですので歯の中心がチェーンライン(C.L.)です。リヤはPerfectレギュラー6段でフリーの全厚は30.0mm。歯厚は2.0mm、歯間は3.6mmで等分とします(実際は不等ピッチで違いますが)。リヤのC.L.は3段と4段の中間部になりますので、オフセット量はTopより14.0、8.4、2.8、2.8、8.4、14.0mm、リヤセンターは423mmで、ずれ角(θ)は左のようになります。フロントから見て外側にずれる場合を(+)、内側を(-)で示しています。Topでも2度を下回っていますがこれでは最Lowと同じ角度となり、使用頻度の高いTopでの負担が大きくなってしまいます。そこで、実車ではフロントのC.L.をわざと外側へずらせているようです。

フロントシングル
リヤ6段レギュラー

 今度は実測値で見てみましょう。フロントはチェーンガードの付いたシングルギヤで、パイプ径が32mm、歯の中心からパイプ端まで29mmですので、C.L.は45mmと算出されます。リヤは、T=7.0mm、ボスフリーの厚みは30mmですので、右エンドからC.L.までの値は7+30/2=22.0mmとなります。O.L.Dは126mmですのでC.Lは126/2-22.0=41.0mmとなります。これよりフロントとリヤのC.L.オフセット量は4mmとなりました。この値で再計算したずれ角が左の表です。Topは1.35°となって軽減されていますが、Lowは2.5°近くまで増加しています。ただし、頻回に使うギヤではありませんし、この角度でもチェーン落ちはしませんでした。

実測値から算出

フロント ダブル

 ランドナーのBS DT-6110を例にとります。フロントはマキシィ2のダブルリングで歯厚2.0mm、歯間5.0mm、C.L.は歯の中間点に設定されていますのでアウター、インナーともにC.L.より3.5mmずれる事になります。フロントC.L.は実測で43mmでした。リヤはサンツアーのPerfect5段。全厚は24.8mm、歯厚2.0mmで歯間3.7mm、リヤのC.L.は3段の歯の中心に設定されますので、TopからLowにかけてC.L.より11.4mm、5.7mm、0mm、5.7mm、11.4mmずれることになります。リヤハブはSUNSHINの124mmで、C.L.は124/2-(7.6+24.8/2)=42mmとなります。C.L.のオフセット値は1.0mm、リヤセンターは430mmなので、これらより各ギヤの組み合わせにおける角度(θ)を算出します。

 

フロント・ダブル
リヤ5段レギュラー

 フロント2段、リヤ5段のずれ角(θ)を上に示します。アウターの場合2-3速間、インナーでは3-4速間で平行になるようです。フロントC.Lがリヤより1.0mm外へ出ているので、アウターTopは1°を切っています。アウターLowは2°を越えましたが、ほとんど使用しないので問題ないでしょう。

フロント トリプル

 正規パーツでのトリプル車を所有しないので、ダイヤモンドキャンピングの改造車で実測してみます。フロントはシマノ600のトリプルで、BBもトリプル用シャフトを使用。パイプからアウターの内側まで35.0mm、シートチューブ28.6mm径、アウターとセンター間の歯間は5.0mmなので、センターの歯をC.L.とするとフロントC.L.は44.3mmになります。リヤは126mmのデュラハブにデュラの6段レギュラーで計算します。歯間はPerfect6段と同じとして(実際は少し違いますが)、リヤC.L.は43.7mm、リヤセンター442mmとなりました。

 

 ずれ角を見てみますと、アウターTopは5段のTopより小さくなりますが、アウターLowやインナーTopは2.8°を越えてしまっています。実用的には1.5°以内としてアウターが1-4速、センターが2-5速、インナーが3-6速と言ったところでしょうか。

24インチ

 グランテックGR-24の部品構成は700CのGR-7と同じですが、リヤセンターが372mmと短くなっており、同じパーツでもずれ角が大きくなっています。フロントのC.L.は実測で45mmと、700Cと同じになっており、リヤのC.L.も41mmです。ずれ角は左の表のようになり、Topは1.5°程度でまずまずですが、Lowは2.7°とかなり大きくなっています(右)。この角度でキシミ音は強いものの、チェーン落ちはありませんでした。

 さて、実際問題としてθ値がどれくらいになると不具合が出るかと言うことです。こればっかりは計算で求めることは出来ないので実例で見てみますと、以下の構成で最ローの時にインナーへのギヤ落ち込みがありました。
 車体はGR-27、BBは純正のSUGINO 3U(127.5mm)ですが、クランクのみサカエ SUPER CUSTOMのインナーを使用(アウターはチェーンガード)したため、フロントC.L.は3.0mm外側に移動して48mmとなりました。リヤは全厚32mmのウルトラ7段を使用したのでC.Lは42mmとなっています。

 

 ずれ角は左の通りで、最Lowの時に踏み込むと6段に落ちてました。当然ながら逆回転させると6段や5段へ落ちてしまいます。C.L.はLowの時に大きくずれているのが判ります。解消法として、リヤハブの左に2.0mmのワッシャをかましてC.L.を1mm右に寄せてチェン落ちは防げました。1mm減るとずれ角は-2.707になり、GR-24の最Lowよりは小さくなります。結局2.8°あたりがこのSetでの攻防ラインと言えそうです。

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