ボスフリー

オーバーロックナット寸法(O.L.D.)と段数

 ボスフリーの段数は5、6、7段が主流ですが、どの自転車にもすべての段数が使えるわけではありません。入る段数の上限はフレームのオーバーロックナット寸法(O.L.D.)によって規定されます。現在ではロード130mm、MTB135mmが一般的ですが、70年代では120mmが5段、126mmが6段で、一部124mmなどもありました。また、ボスハブにはD値(胴付寸法)があり、120mmでは31mm以上、126mmでは36mm以上無いと歯とフレームが干渉する恐れがあります。

 

 写真のハブとボスフリーはDuraAce5段で、O.L.D120mm、ハブのD値は31mmで規定値内、フリーの厚みは26mmなので、ナット端から5mmの余裕があります。

 

 DuraAce6段では、O.L.D126mm、D値は36mmで、フリーの厚みは30mmなので、ナット端から6mmの余裕があります。

 

 80年代に歯間を狭くしたウルトラ規格のボスフリーが出た結果、5段用にもウルトラの6段が入るようになりました。ただ、6段とウルトラ7段の関係に比べると、5段とウルトラ6段の方が長さの差が多少大きくなるため、フレームによってはぎりぎりの場合があります。右はBS Diamond スポルティフ、O.L.D.120mmにNewWinnerウルトラ6段入れた場合ですが、ナットとエンド面がチェーンぎりぎりになっています(一応当ってはいませんが、ボルトは多少削ってある)

 

 6段用の126mmにウルトラ7段が入りますが、多少窮屈ですね。ウルトラ6段の場合は、さすがに余裕があります。

 

 5段用120mmと6段用126mmのハブ本体は同じで、スペーサーを6mmだけ伸ばして120mmを126mmにしていますので、スペーサーとクイックシャフトさえ交換すれば組み替えは可能です。さて、5段が6段になって6mm増加したと言うことは、もう6mm増やして132mmのハブを作れば7段のボスフリーが入る計算になります。実際に外国のメーカーが作ったそうですが、フリー側の突き出しを伸ばしすぎたため、当時の製品ではシャフトのゆがみが出たそうで、130mm以上は以下に紹介するフリーハブへ移行したと聞いています。

 

フリーハブ

 フリーハブとはハブとフリー本体が一体化している物で交換はできるものの、基本的には専用品しか使えません(右)。

 

 ボスフリーとフリーハブではフリーの構造は似ていますが、ハブの構造に大きな違いがあります。ボスフリーと勘合するハブは、その構造上フリー側のボールがボスフリー本体より内側に来ますので、軸を支えるボールの位置が左右でアンバランスになります(左上)。これに比べてフリーハブはフリーがハブに一体化されているためフリー本体内にフリー側のボールを内蔵することができ、ボスフリーに比べて左右のボール位置のバランスが良くなります(左下)。右はデュラエースのO.L.D.126m用リヤハブシャフトですが、ボスハブの右側球押しがフリーハブに比べて内方にあるのが判ります(一番上)。ただ、フリーハブでも72Dura(EX)、73Dura(AX)と74Dura(NewDuraAce)では左の球押しの位置が変わっていますし、製品によってはボスフリーの位置に近いものもあるようです。80年代にフリーハブが登場して以降、上位機種はすべてフリーハブに移行し、国産ボスフリーは姿を消してしまいました。

 

フリーハブとの見分け方

 現在では、ほとんどがフリーハブと言えそうですが、70年終盤にシマノがフリーハブを出すまではボスフリーしかありませんでした。古い自転車をレストアするときに、ボスフリーかフリーハブか迷うことがありますので、自分なりの判別法を書いておきます。

 

フリー前面の勘合部の有無

 フリー前面に勘合部があれば、ボスフリーと言ってよいでしょう。ただし、前面に勘合部のあるボスフリーは90年代前半で終了し、以後のシマノや外国製のボスフリーは内筒に低い16爪の勘合を持つものになってしまったため判別しにくく(右)、汚れてなどで見分けが付かないものが多いです。

 

フリー側のハブ軸が膨らんでいる

 フリー側のハブ軸が膨らんでいればフリーハブです(左)。フリーハブはハブ内部にフリー機構が入るためハブ軸に膨らみができますが、サンツアーや77Duraなど膨らみのほとんど無い機種もあるため、膨らみが無いからと言ってボスフリーであるとは言えません。

 

ロックリングの有無

 ボスフリーのTopギヤはネジの事が多く(左)、フリーハブの歯はロックリングで締まっていることが多いです(左中)。ただ、7段以降のボスフリーにはロックリングがあったり(右中)、フリーハブの初期製品はネジ式のTopギヤがあったりしますので(右)、ロックリングの有無だけでは正確に区別できません。

 

段数

 ボスフリーからフリーハブ並行する80年代は6,7段が主流でしたので混在率が多いですが、それ以前の5段時代はボスフリーがほとんどで、近年の8段以降はフリーハブがほとんどです。ただし、数は少ないですがフリーハブの初期製品には5段があったり、海外製のボスフリーでは8,9段の製品があったりしますので段数だけでは確定できませんが、さすがに10,11段のボスフリーは無いようです。

フリーの内筒部を確認

 構造が一番違うフリー部を検証するのが一番確実です。ボスフリーはハブの玉押し部がフリー本体より内側にあるのに対して、フリーハブは本体外側付近にあります。そのため、ハブ軸を覗いて奥までシャフトが見えればボスフリーです(左)。見えなければフリーハブ(中)と言えそうですが、ロックナットに邪魔されて見えにくい事があります(右)。

 

 結局、一番確実なのはリヤシャフトを抜いてハブ球の位置を見ることです。フリーと反対側のロックナットを外してシャフトを引き抜くと、ボスフリーは中子内筒の奥に球が見えますが、フリーハブはダストシールのすぐ後ろに球が見えます。ここまですればボスフリーかフリーハブかの区別は確実ですが、大変面倒くさいですね。

 現在、フリーハブに対してボスフリーの優位性はありませんが、力を一方向にロス無く伝えるという機能は同等で、重くて大きいと言うハンディは裏返せば耐久性の高さとも言えます。ハブ軸に対する弱点も、レースするわけでもなく、段差通過時に尻を浮かせてショックを和らげたりすれば、さほど問題になるとも思えませんし、困ることも今まで無かったです。
 いまさらボスフリーを新規に使用する意味合いはありませんが、旧車のレストアとなると話は多少複雑になります。旧車のリヤO.L.D.は120mm〜126mmなので、現在流通している130mm以上のフリーハブは基本的には使用できません。まあ、当時のフレームはクロモリなどの鉄製がほとんどでしたので、O.L.D.126mmなら無理やり広げて130mmフリーハブを入れる人もいますが、5段,120mm仕様ではそうも行きません。そこでボスフリーもレストアするのですが、国産ボスフリーは無くなってから久しく、ギヤの入手すら困難な状況です。ただ、サンツアーのスプラインギヤなどはシリーズ共通で使えたりして中古パーツの流用ができますので、そんなレストア時の参考になればと、以後に資料を置いておきます。
 なお、最近DIA COMPEからENE CICLOブランドで中華SUN RACE製の5段フリーが\1,300で販売されています。いつまで販売されるかは不透明ですが、レストアには朗報ですね。

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