問題点の対処法

 チェーンラインは必ずしも前後同じでもなく、使用目的(Top重視のロードか、Low重視のMTBか)によって変えてもよさそうです。また、旧車レストアではBBとクランクがセットで入手できなかったり、フレームに合うセットが無かったりする場合が出てきます。ここでは、チェーンラインの移動による対処法などを考えてみたいと思います。

 

チェーンラインを外側へ移動させる

フロント

 フロントのC.L.を外側に移動するには、より長いBBシャフトを使用します。たいていのBBでは長さの長いダブル用やトリプル用が出ていますし、それ以外の長さをそろえているBBもあります。ただし、あまり外側へ移動するとフロントディレーラの変速限界を超えて変速しなくなります。古いフロントディレーラの限界はフレームセンターから50mm程度と聞いたことがありますが、最近のMTBではC.Lが50mmですのでもう少しは行けそうですね。

 

リヤ

 リヤのC.L.はハブとフリーによって決まりますが、一部の製品を除いてほとんどの組み合わせで43〜45mmの標準的な値を示します。そこで、外側に移動させるにはハブの左にワッシャを加え(左)、右のスペーサーを削ればよいのですが、寄せても1〜2mmで程度です。右に寄せるとチェーンがシートステーに接触するためあまり右へは寄せれません(右・120mmエンドにウルトラ6段を入れた例。エンドとチェーン間はぎりぎりです)。

 

チェーンラインを内側へ移動させる

フロント

 短いBBシャフトを使用すればC.L.を内側へ移動できますが、これにも制限があります。通常ではクランクやインナーリングとチェーンステーは当たりませんが、C.L.を短くしすぎると当たってしまいます。どのくらいで当たるかはフレームによって違いますが、通常は数mm程度しか余裕ありません。

 

リヤ

 前回とは逆に右にワッシャを入れて左のスペーサーを削れば良さそうですが、ハブの左にはスペーサーが無くて玉押しとロックナットがあるだけです(左)。ロックナットを薄くするのも限界がありますし、内側に移動するとオチョコ量が増えてしまいますので(中)、リヤのC.L.を内側にするのは現実的ではありません。

 

ずれ角を縮小する

 ボスフリーには歯間3.5mmのレギュラーと歯間2.7mmのウルトラの2種類があるため、レギュラーをウルトラ化すればTopやLowでのずれ角も縮小できます。ただしウルトラのボスフリーは6段と7段しかないので5段レギュラーにこの方法は使えません。126mmハブに入っている6段レギュラーに6段ウルトラを使えばずれ角を縮小できますし、シートステーとの距離も余裕が出ますので、オチョコ量を改善することも可能です。ただし、レギュラーに比べると歯間が短くなっているので変速レバーの動き量が短くなり、シビアに変速してしまいます。

 

フロントを多段化する

 結局一番現実的なのはフロントの多段化です。多段化するとアウターはより外側へ、インナーはより内側へ移動するので、常用するアウターTopやインナーLowのずれ角を小さく出来ます。多段化すると重量は増えますが、ギヤ比選択の多様化などの恩恵も多くなります。ただし、フレームによってはインナーがチェーンステーに当たる場合がありますので、クリアできるBBシャフトが入手できるかどうかが鍵になります。

 シマノ600を例に取って見てみますと、トリプルシャフトはダブルシャフトに比べてチェンリング側が5.0mm長くなっています。また、トリプル化によって歯間の半分(1.5mm)と歯厚の半分(2.0mm)の3.5mmだけ内側によります。結局C.L.は1.5mm外側に出ることになりますが、アウターはダブルのときより5.0mm外側に出て、インナーは2.5mm内側に寄る事になります。

 最後にフロントをトリプルに、リヤをレギュラー6段からウルトラ6段にしてハブ軸左にワッシャをかませてC.Lを4mm移動させた実例で見てみましょう。

 

 DC-545はキャンピング車ですので、最初からフロントはトリプルギヤでした。オリジナルはサカエSR-3のトリプルでしたがシマノ600のトリプルへ変更しています。フロントのC.L実測値は44.3mmでした。リヤはデュラエースのラージハブ126mmにしてありますが、左に4mmのワッシャを入れてC.Lを4ミリ右に移動させています。そのためオチョコ量は改善しましたが、右側の余裕が少なくなりますので、ボスフリーをレギュラー6段からウルトラ6段へ変更して4mmかせいでいます。リヤは実測ではTop外側からエンドまで3.6mm、フリー厚26.1mmですので、C.L.は126/2-(3.6+26.1/2)=46.3mmとなります。

 

各ギヤのずれ角は左のようになります。6段は14-16-18-21-24-28の構成で14TはOverTop気味ですので、通常は16Tで踏んでいます。チェーンラインとフレームセンターが平行になるのは、アウターでは2-3速間、センター4速、インナーでは5-6速間になるので、常用域での使用に都合よくなっています。

チェーンラインとは

 結局、チェーンラインの持つ意味とは何なのでしょうか。シングルギヤにおけるチェーンラインは、フロントとリヤを一直線に揃えて力の伝達効率を上げるものですが、チェーンが左右に振れまくる多段車での意味合いを考えてみますと、フロントギヤ構成によって意味合いが変わってくると思います。

1)フロントシングル

 フロントシングル車はフロントの変速がない代わりに、リヤのスプロケットをTopからLowまで全て使います。そのため、チェーンの振れ幅が一番多くなるので、チェンラインの意味合いは「チェーン落ちしない」でしょう。通常走行時一番使用するのはTopか2ndスプロケットですので、チェーンラインもそのあたりに平行になるようにしつつも、最Lowでイン落ちしないものが求められます。フロントシングル車って最近では乳児車や一般車程度なので趣味車には少ないですが、グランテックを整備しだしてから実体験するようになりました。

2)フロントダブル

 サイクリング車で一番多い構成で、チェーンラインの自由度が高い構成です。10段変速ではフロント48-36、リヤ15-17-19-21-24が標準ですが、ギヤテーブルの重なりがあるため実際に使用するのはアウターが1-4速、インナーが3-5速で振れ幅はフロントシングルに比べると小さくなります。また、フロントアウターはチェーンラインより外側に、インナーは内側にギヤが来るので、さらに振れ角が少なくなります。この場合のチェーンラインの意味は「2〜3mmずれてもどうってこと無い」でしょうか。あえて言えば、常用ギヤであるアウターと2ndの時にずれ角を小さくするほうが、効率的と言うところでしょう。

3)フロントトリプル

 リヤが5段時代ではギヤテーブルの隙間を埋める意味でのセンターギヤでしたが、リヤが倍の10段に多段化した現在ではトリプル化する意味ってどうなのでしょうかね。ともあれ、昔はキャンピング車くらいしか見なかったフロントトリプルですが、最近ではロード車でも珍しくありません。さてチェーンラインですが、フロントダブルに比べてさらに余裕が出てきます。フロント3枚なのでアウターはより外側に、インナーはより内側になるのと、ギヤテーブルの重なりが多くなって実使用での振れ角はさらに小さくなります。前項でも計算していましたが、アウター2速、インナー4速あたりでチェーンラインが平行になるようで理想的な状態です。ただ、トリプルになると幅がありますので、チェーンラインが内側すぎるとインナーがチェーンステーに当たりますし、外側すぎるとフロントディレーラーの許容範囲を超えてしまいます。トリプルの場合はチェーンラインの許容範囲は少なく、意味としては「インナーが当たらない程度まで内側にして、FDの切れを良くする」という意味合いでしょうか。FDは弧を描くように外側に出ていき、外に行くほど横方向より縦方向に多く動きますので、あまり外に行くと変速性能が落ちてしまいます。

 

 今は、多段化された上にコンポーネントですので、チェーンラインはあまり気にする所ではないのでしょうが、昭和の時代の四角錘BBをレストアする時は、不具合の落とし穴だったりします。

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