リヤチェーンライン

 リヤのチェーンライン(C.L.)は左図の様に、オーバーロックナット寸法(O.L.D.)の半分から、エンドからフリーまでの距離とフリーの厚みの半分の合計(T)を引いた値となります。
 C.L.はリヤハブとボスフリーから決定されますが、それぞれの要素を見てみましょう。

リヤハブ

 左から、SANSIN軽合(GRANDTECH付属.126mm)、SAKAEシールドCCB(126)、デュラエースHA-100SFQR(120)、デュラエースHA-200LFQR(120)、デュラエースHA-200LFQR(126)、シマノ・レギュラーLFQR(124mm改126)、SUZUEシールドLF(126)(すべて36H)

 最近のフリーハブのO.L.D.は130mm以上ですが、ボスフリー時代のリヤハブO.L.D.は、5段120mm、6段126mmが主流でそれより古い物で124mmなんて製品もありました。ただ、本体は120mm、126mmともに共通で、シャフトとスペーサーによって使い分けられています。

 120mmにレギュラーの5段、126mmにレギュラーの6段を入れてC.L.を測定しますと、5段で43.1mm、6段で43.7mmとなりました。これは旧車で言われている、フロントダブルが43.5mmの値にほぼ一致します。

   

左:デュラエース LFQR(120mm) + デュラエースレギュラー5段 C.L.(43.1mm)
右:デュラエース LFQR(126mm) + デュラエースレギュラー6段 C.L.(43.7mm)

 126mmシャフトが、120mmシャフトのフリー側に5mmのスペーサーを足したものだと仮定すると(1mmは左側ワッシャの増厚)、リヤハブでのセンター位置はフリー側に2.0mm移動します(オチョコ量が増えます)。またレギュラーボスフリーの歯厚は約2.0mm、歯間は3.5mmなので、5段が6段になるとフリー全体で5.5mm厚くなります。C.L.はフリーの厚みの半分だけ増加するので2.75mm増加する事になり、センター移動量とあわせるとC.L.は0.75mm増加します。この結果は上のデュラエースの場合とほぼ一致します。

 

 リヤホイールはオチョコ組みをしている関係上、フリー側を外に出した方が剛性に有利になりますので、段数によってはスペーサーで変更する事も出来ます。写真は旧600ラージハブ124mmを126mmに改造した物ですが、シャフト交換時に左のみ2mmのスペーサーを加えたのでD値が33.8mmと小さくなっています。これにレギュラー5段、またはウルトラ6段を入れますとチェーンラインを大きく変更せずに、オチョコ量の軽減が望めます。

 

 サンツアーではウルトラボスフリーに関して、120mmのハブに6段を使用する場合D値(胴付寸法)を31mm以上、126mmに7段使用で36mm以上を求めております。これはTopスプロケットがシートステーに干渉しない最低限の値だそうですが、フレームによっては使えない場合もありそうです。

 5段レギュラーと6段ウルトラではウルトラのほうが多少厚くなるので、Topスプロケットが大きかったり、フレームの形によってはシートステーと干渉してしまいます。比べて、6段レギュラーと7段ウルトラでは厚さの差が少なくなり、トラブルは起こりにくいようです。
左:デュラエースLFQR(120mm)、右:デュラエースLFQR(126mm)。緑のスペーサーのみ違う
D値(胴付寸法)
 デュラエース SFQR(120mm)
31.0mm
 SUNSINE(グランテック付属126mm) 38.2mm
 デュラエース LFQR(120mm)
31.2mm
 デュラエース LFQR(126mm) 36.0mm
 SUNSINE・レギュラー(124mm)
33.7mm
 サカエ シールドCCB SF(126mm) 36.2mm
 シマノ・レギュラー(124mm改126mm) 33.8mm  SUZUE シールドLF(126mm) 36.6mm
 各リヤハブにおいてD値(胴付寸法)を測ると120mmで31mm、126mmではSANSINハブを除いてほぼ36mm強になっています。リヤチェンラインはボスフリーの種類とリヤハブで決定されますので、D値が同じような製品を選べばハブ変更によるC.L.のずれは小さくてすみます。

 

ボスフリー

左上より、DurAceFA-100(5R)、DurAceFA-110(6R)、DuraAceMF-7400(6R)、600EX.MF-6702(6R)、Perfect(5R)、ProCopme(5R)、α(6R)、AP(7U)、ProCompe(6U)、NewWinner(5R)、
APPowerFlo(7U)

 レギュラー5段でのフリー本体の厚みは26mmでしたが、多段化にともない30mmを越えるようになってきました。通常オーバーロックナット寸法(O.L.D.)が120mmならレギュラー5段かウルトラ6段。126mmならレギュラー6段かウルトラの7段で、130mm以上は多段フリーハブのようです。レギュラーもナローも歯の厚みは1.9mm〜2.0mmで同じなのですが、歯間が違います。レギュラーは歯間3.7mm前後ですが、ナローは2.7〜2.9mmです。また、サンツアーは不等ピッチで1-2速が広いなどのイレギュラーがあります。ここでは、ボスフリーの違いによるC.L.への影響などを検討してみます。

 

左:デュラエース LFQR(120mm)+FA-100(5段)右:デュラエースLFQR(126mm)+FA-110(6段)

 デュラエースの120mmと126mmのLFハブを使用して、各ボスフリーでの値を測定します。フランジの外側とローギヤの外側との間をD1、TopとLoの間をDF、Topとエンドとの間をD2として測定しました。

 

 D1値を見てみますとシマノのレギュラーは8.2〜8.6mmとそろっていますが、5〜7段が組めるNewWinnerと6段ウルトラのPro-Compeでは7.2mmと1mm以上小さくなっています。120mmエンドに1段多めのウルトラサイズを入れるため、フリーを出来るだけ中心に寄せたのでしょうが、あまり寄せるとディレーラーとスポークが接触する可能性があり、調整や操作に慎重を要するようになります。逆にサンツアーの6段レギュラーは126mmエンド用と割り切ってか、9mm強と1mm程度大きくとってあります。

 

ボスフリー本体

 ボスフリー本体の比較写真を見ても、Perfectの6段ウルトラ(6U)と6段レギュラー(6R)、α6段レギュラーとAP7段ウルトラのボスはそれぞれ微妙に違っており、別設計であることが判ります。7段ウルトラのD1値は8mm強でシマノのレギュラーと同じになっており、結局この値が標準のようです。
 DF値はレギュラー5段で25mm、6段で30mm前後、6段ウルトラで27mm、7段ウルトラで31.4mmと、ほぼ一定です。D2値はTopスプロケットとハブナット外側との距離です。だいたい5mm弱ですが、120mmでの6段ウルトラや126mmでの7段ウルトラでは4mmを切るものも出てきます。

 結局チェンライン(C.L.)は120mmの5段レギュラーで43mm前後、6段ウルトラで42.6mm、126mmの6段レギュラーと7段ウルトラで43.5mm前後という事になりそうです。
 6段ウルトラは5段レギュラーよりC.L.は小さいものの全体での厚みは増加し、D1値を減らしてもなおD2値が短くなるためすべての5段レギュラーを6段ウルトラへ変更できるわけではなさそうです。7段ウルトラではそのあたりを割り切ったのかD1値、C.L.共にあまり変えず、D2値のみ短縮しています。これは7段ウルトラにする場合は使用できるハブ(胴付寸法が長い)、又はフレームで使用してくれという事だと思います。


  ここからは推察です。ウルトラボスの初代はNewWinnerですが、このボスは5・6段レギュラー、6・7段ウルトラと4種類の組み合わせが一つのボスで出来ます。当時は5段・120mmがスタンダードな時代でしたので、その代替に出来るようD1値を1mm近く減らしてD2値をかせいだのではないでしょうか。ただ、D1値を減らしすぎるとロー変速時にスポークとディレーラーが当たりやすくなり、何らかの問題が発生して次世代ウルトラのWinnerProではD1値が通常の8mm値に戻ったのではないかと思います。
 チェンラインは43.5mm前後で今のシマノのロード値と同じですが、常用ギヤがTopだった5段の頃と、多段化されTop側がオーバートップ気味の現在とでは常用ギヤの位置が違うため、同じチェンラインでも持つ意味は変わってきます。結局、前後のチェンラインは参考値でしかなく、重要なのは常用ギヤでのチェーンラインのずれと、Top・Lowでのずれ角ということになります。ずれ角はチェーンステー長(ホイールサイズ)とも関係してきますので次項で考察してみます。

inserted by FC2 system